○泉州南消防組合生物剤等に係る火災等の消防活動要綱
令和2年9月23日
泉州南消防組合消防長訓令第16号
(消防活動の対象)
第1条 この訓令は、泉州南消防組合警防規程(平成28年泉州南消防組合消防長訓令第8号。以下「警防規程」という。)第18条その他の警防活動に含まれる以下に示す災害を対象とする。
(1) 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症予防法」という。)」に定義される感染症の病原体及び「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律(昭和57年法律第61号)」に定義される生物剤(以下「生物剤等」という。)に係る火災・流出・漏えい等の災害
(2) 生物剤等を意図的に用いた悪意目的による災害又はその疑いのある災害(以下「意図的災害」という。)
(用語の定義)
第2条 この訓令における用語の定義は、次による。
(1) 密閉消火とは、防火区画等を利用した密閉による窒息消火をいう。
(2) 進入統制ラインとは、最上級指揮者が判断した各防護装備を施した隊員のみが活動できる区域と防護装備を施していない隊員が活動できる境界を明確化し、活動隊員の出入りを統制するラインをいう。
(3) ホットゾーンとは、原因物質に直接接触する可能性のある区域をいう。
(4) ウォームゾーンとは、消防活動開始時には原因物質が存在せず、直接的な危険性は少ないが、消防活動が開始され、活動隊員等がホットゾーンから退出することで二次汚染が考えられる潜在的危険区域をいう。
(5) コールドゾーンとは、直接の危害が及ばない安全区域で、汚染の可能性がない区域として管理する必要がある区域をいう。
(6) 一次トリアージとは、除染方法を決定する目的として、傷病の程度、歩行の可否及び原因物質の付着等について、汚染検査前に実施するトリアージのことをいう。
(7) 二次トリアージとは、コールドゾーン内で多数の傷病者等に対して救急隊が実施するトリアージのことをいう。
(8) 乾的除染とは、着衣等に付着した生物剤等を除去する目的で行う脱衣のことをいう。
(9) 水的除染とは、皮膚又は防護服等に付着した生物剤等を除去する目的で行う水による洗浄のことをいう。
(事前対策)
第3条 署長は、警防規程第43条に定める事項について、次に掲げる防火対象物等の実態把握に努めるものとする。
(1) 第1条に掲げる災害に関係する施設等の実態をあらかじめ把握しておくとともに、日常から施設関係者との災害時対応体制を確立し、特定対象物警防計画を策定しておく。
(2) 意図的災害の発生する可能性がある消防対象物の把握等
ア 社会情勢に応じて、重点的警戒が必要とされる消防対象物の把握
イ 集客施設等、大規模な被害が予想される消防対象物の把握
2 装備資機材の維持管理
防護装備、測定機器及び除染設備の日常点検を励行し、適切な維持管理を行う。
3 訓練の実施
本訓令に基づき、訓練を実施する。
(覚知時の措置)
第4条 消防指令センターが本訓令の対象とする災害を覚知した場合は、泉州南消防組合災害出動計画に基づき、指令を行うとともに「生物剤等に係る災害である。」旨を付加し、必要に応じて暫定的に災害地点から半径約120mの位置に部隊の集結場所を指定する。
2 意図的災害が発生した場合は、同時多発災害となる可能性を想定して、複数の災害に対応できるよう考慮する。
3 その他、特殊災害の指令業務に関する事項は、別に定める。
(任務)
第5条 各隊の任務は、次のとおりとする。
(1) 最上級指揮者は、現場指揮本部の長として、各小隊等を指揮統括して円滑な指揮体制を確立する。また、災害規模に応じて、消防指令センターと協力して増隊出動等を行う。
(2) 消防隊は、ウォームゾーンにおいて、一次トリアージ、隊員の除染を含む除染活動及びホットゾーンにおける救助隊の活動補助を行う。なお、2小隊以上での中隊活動となる際は、最上級指揮者が指名した中隊長を長として活動を行うものとする。
(3) 救助隊は、高度救助隊長を長として、ホットゾーン及びウォームゾーンにおいて原因物質の簡易検知、ホットゾーンの設定、負傷者等の救出活動及び消防隊の活動補助を行い、2小隊以上での中隊活動となる際についても、高度救助隊長を長として活動を行うものとする。なお、高度救助隊が他に出動中等で不在となる際は、特別救助隊長を長として活動を行うものとする。
(4) 救急隊は、コールドゾーンにおいて二次トリアージポスト、救急指揮所及び現場救護所を設置し、消防隊等が除染した傷病者を引き継ぎ、傷病者の救命を主眼として観察及び必要な応急処置を実施し、速やかに適応医療機関等に搬送する。なお、2小隊以上での中隊活動となる際は、最上級指揮者が指名した中隊長を長として活動を行うものとする。
(消防活動)
第6条 消防活動は、消防隊員の感染及び汚染を防止し、住民の安全を確保しながら、原因物質の汚染拡大防止を図り、次により行動することを原則とする。
(1) 被災者を早期に救出及び救護し、被害の軽減を図る。
(2) 活動方針の決定に当たっては、本要綱が対象とする施設関係者を早期に確保して有効に活用する。
(3) 空調設備を停止する。ただし、空調設備に汚染拡大を防止する構造がある場合及び災害状況から空調設備を作動させる必要がある場合は活用する。
(4) ホットゾーン等の設定を明確に行い、厳重な進入管理と感染防止・汚染防止措置を実施する。
(5) 意図的災害の可能性を示唆する情報を得たときは、直ちに消防指令センターに伝達する。
(6) 消防活動方針は、指揮者を通じて全隊員に周知徹底し、隊員の行動を強く統制する。
(7) 消火活動は、密閉消火等の効果的な消火方法を選定し、延焼防止を重点とする。
(8) 消防指令センターは、最上級指揮者からの現場情報により傷病者の救出及び除染の優先度、汚染検査及び除染結果、消防隊員の活動危険、救命処置等への医学的な助言が必要な場合には、医師等の派遣を要請する。
(9) 医師及び保健所と連携して、感染及び汚染した傷病者や活動隊員を受入れ可能な医療機関を確保する。
2 出動隊における出場時の措置
(1) 特定対象物警防計画等を携行する。
(2) 出動隊は、呼吸保護具、防護服、ゴム手袋等必要資機材の積載を確認し出場する。
3 出動隊の集結
集結場所に集結した場合は、次の措置を実施する。
(1) 関係者情報等により、集結場所の安全を確認する。
(2) 隊員に対し呼吸保護具の着装、資機材の再点検等、必要な指示を行う。
4 現場到着時の活動
出動場所付近到着時における活動内容は、次による。
(1) 出動指令時、生物剤等に関係する旨が付加されない場合で、現場到着後、本訓令の対象とする災害と判明した場合は、消防指令センターに直ちに伝達するとともに、出動各隊に周知徹底し、風上又は風横側で安全を見込んだ十分な距離をとって部署する。
(2) 最上級指揮者は、現場指揮本部を風上又は風横の安全な位置で、施設関係者等と連携が取りやすい場所を選定して設置し、消防指令センターに伝達する。
(3) 出動隊は、早期に施設関係者等を確保し、災害実態の把握に努めるとともに、活動方針決定にかかわる技術的支援者として有効に活用する。
(4) 消防警戒区域を早期に設定する。
(5) 災害が発生している施設や現場への接近に際しては、関係者の助言と誘導に従い、慎重に接近する。
(6) 感染危険のある場所の安全側に進入統制ラインを設定する。なお、消防隊員の感染及び汚染防止のため、身体防護をしていない隊員の進入を統制する。
(7) 災害現場における広報は、各関係機関とともに警防規程第26条に基づき、軽易な事項を除き、最上級指揮者の指示により統一的に実施する。
(8) 災害現場における資機材等の支援活動については、最上級指揮者の指示により実施する。
5 生物剤等の測定
(1) 生物剤等の測定は、複数の測定箇所を指定し、広範囲に行う。
(2) 測定結果を判別するための測定結果確認場所をウォームゾーン内のホットゾーンに近い場所に設定する。
(3) ホットゾーンへの隊員の進入は、原則として、交替要員が確保できた後に開始する。
6 消防警戒区域等の設定
消防活動を行うに当たって、次の基準により各区域を設定する。
(1) 消防警戒区域又は火災警戒区域の設定
ア 住民等の安全確保及び現場における消防活動エリアを確保するため、消防警戒区域を設定する。この場合、安全を見込んで十分に広いスペースを確保する。
イ 火災の発生するおそれが著しく大きいときには、火災警戒区域を設定し、その警戒区域からの退去命令、区域への出入り制限及び火気の使用を禁止し、住民等の安全を確保する。
(2) ホットゾーンの設定
ア 生物剤等関係施設においては、原則として当該生物剤等関係施設全体をホットゾーンと設定する。
なお、陰圧設備が正常に作動し、空調設備が停止していることが確認された場合は、生物剤等を保管及び取扱う棟の防火区画によりその区域を設定する。
イ 屋外及び集客施設等の前ア以外の場所において発生した場合は、災害状況、風向及び街区状況等から感染の可能性がある区域にホットゾーンを設定する。
ウ ホットゾーンは、常に設定範囲の見直しを行い、災害の実態に応じ、設定範囲の拡大又は縮小を行う。
(3) ウォームゾーンの設定
ア 汚染のない安全な場所に、隊員、要救助者及び資機材の除染所を設定し、除染所を含むエリアをウォームゾーンとする。
イ 隊員の入退出経路及び傷病者の搬送経路にあっては、状況によりホットゾーンとする。
ウ 災害の状況により、汚染拡大危険を考慮した範囲で設定する。
(4) コールドゾーンの設定
ホットゾーン及びウォームゾーン以外で汚染のない安全な場所に現場指揮本部を設定し、救急隊が二次トリアージ及び救急活動を行うエリアをコールドゾーンとする。
7 要救助者の救出・救護
(1) 要救助者を発見した場合は、汚染又は感染危険のある場所から、できるだけ危険の低い場所への移動及び一時的な避難(ショートピックアップ)を考慮し、汚染及び感染危険の軽減を図る。
(2) 救助した要救助者は、ホットゾーン外に搬出し、一次トリアージ担当、除染担当隊に引き継ぎ、医師及び保健所等が疫学調査を行うため、曝露者集合場所に曝露した可能性のある者を集合させる。
8 除染活動
除染は、ウォームゾーン内に設置した除染所において、ホットゾーン内で活動した消防隊員、関係者、要救助者及び使用した消防装備の全てについて、次により行う。
(1) 除染所の設置
ア 研究施設等の屋内で発生した場合は、原則として施設内の設備を活用するものとし、設備がない場合又は使用できない場合は、災害の状況から汚染の拡大を防止できる場所に除染所を設置する。
イ 屋外で発生した場合は、風向及び街区状況等を考慮し、災害の状況から汚染の拡大を防止できる場所に除染所を設置する。
(2) 除染要員の指定
施設内の設備を活用した除染は、原則として施設関係者に行わせ、その他、状況により消防機関が行う場合は、除染担当の隊を指定し、保健所及び専門家等の助言のもと実施する。
(3) 除染
汚染の可能性がある場合は、一次トリアージ実施後、次により除染を行う。
ア 要救助者の除染
(ア) 乾的除染後、必要により、露出していた体表面の部分的な水的除染を実施する。
(イ) 除染後、ウォームゾーン内に一時避難場所を設定し、傷病者を避難させる。ウォームゾーン外への避難誘導にあっては、原則として、保健所及び専門家等との協議により安全が確認されるまで実施しない。
イ 隊員の除染等
(ア) 防護服を着装した状態で水的除染を実施し、防護服離脱後、必要により乾的除染を実施する。
(イ) 除染シャワー等からの排水は簡易水槽等に溜めて、保健所及び専門家等の助言に基づき処理する。
ウ 資機材等の除染等
汚染の可能性がある装備資機材は事業主等に処理を依頼し、必要により、水的除染を実施する。
エ その他
(ア) 除染後、必要により除染結果を測定器等を用いて確認する。
(イ) 汚染の可能性がある装備資機材は、除染の結果、再使用できるものは除き、原則として再使用しない。
9 救急活動
(1) 活動要領
ア 救急活動は傷病者の救命を主眼として傷病者の観察及び必要な応急処置を実施し、速やかに適応医療機関等に搬送する。
イ 救急隊は、コールドゾーンにおいて活動する。
(2) 搬送要領等
ア 傷病者を救護する場合には、二次汚染及び二次感染を防止するためゴム手袋、ゴーグル、マスク、簡易型防護服等を着用し、身体、衣類等が傷病者に直接触れないようにする。
イ 二次汚染及び二次感染を防止するため、傷病者の全身を被覆具等で包み、頭髪は三角巾等で被覆する。ただし、長時間の搬送を行う場合は、被覆具等で被覆すると熱中症様症状を引き起こすことがあるので注意する。
ウ 傷病者を救急車へ収容するに当たっては、救急車の床等を汚染防止のため、必要によりビニールシート等により防護する。
(3) その他、生物剤等に関する救急活動については、別に定める。
(消防活動の終了)
第7条 部隊の縮小や消防活動の終了判断は、次に掲げる活動全てが完了したことを最上級指揮者が確認した時点とする。
(1) 全ての要救助者の救出及び医療機関への搬送が完了したとき。
(2) 生物剤等による被害の拡大防止措置が完了したとき。
(3) 活動隊員全員の除染が完了したとき。
(4) 現場に残された生物剤及び汚染物等の処理について事業者、関係者及び荷主等との協議が完了したとき。
(安全管理)
第8条 消防隊員の曝露を防止するため、特に次により生物剤等からの防護を図る。
(1) 安全管理の原則
ア 消防隊員の身体防護原則
(ア) 進入統制ライン、ウォームゾーン及びホットゾーン内に対する防護装備は、生物剤等による人体危険に対応する、防毒マスク等の呼吸保護具及び化学防護服等の装備を着装する。
(イ) 各区域内には、確実な身体防護措置を講じた者以外の者の進入を禁止する。
イ 生物剤等の感染危険等について早急に把握するとともに、指揮者はこれらの情報を周知徹底する。
ウ ホットゾーン内で消防活動を実施して退出した隊員に身体状況を報告させるなどして、隊員の身体の変調について十分掌握する。
エ ホットゾーン内での活動中、防護服に異状等が認められた場合は、速やかにホットゾーン外に退出し、身体上の異常の有無を確認し、指揮者に報告する。
オ ホットゾーンが広範囲に設定される場合又は長時間の活動が予想される場合は、早期に交替要員を確保し、活動時間の管理を行う。
カ 消防警戒区域内で活動した隊員は、消防活動終了後、うがい、手の洗浄等を必ず実施する。
キ 除染した防護服等の資機材は、ウォームゾーン内の1箇所に集め、さらにビニール等で密封し、所要の殺菌措置を行う。
ク 消防警戒区域内では、状況に応じ、努めてマスク等の呼吸保護具及び簡易型防護服等を着用するなどの身体防護措置を行い活動する。
(2) 健康管理
ア ホットゾーン及びウォームゾーンで消防活動を実施した隊員及び感染の疑いがある隊員は、必要に応じて泉州南消防組合職員安全衛生管理規程(平成26年泉州南消防組合消防長訓令第8号)第37条に定める特別健康診断を受けさせるものとする。
イ 指揮者は、ホットゾーン及びウォームゾーンで活動した隊員について、生物剤等の潜伏期間を考慮して経過観察を行うものとする。
ウ 最上級指揮者は、関係機関による最終的な生物剤等の特定結果を確認するとともに、特定結果を出動各隊に周知する。
(応援出動)
第9条 本訓令は、生物剤等に関する消防活動の充実強化を図るものであるが、火災や爆発等を伴う複合的な災害となることを鑑み、本訓令と他の活動要綱等を組み合わせて総合的に対応し、早期に部隊の増隊要請、他の地方公共団体及びその他の行政機関との間に締結した各協定に基づき実施するものとする。
(その他)
第10条 本訓令に基づき、生物剤等に関する各種研修や訓練を実施し、各生物剤等の特性に関する知識及び資機材などの習熟に努め、詳細な活動手順等は総務省消防庁及び大阪府からの通知等を参考とすること。
附則
この訓令は、令和2年10月1日から施行する。